こんにちは、けいタンです。
今日はかなり時間が空いてしまいましたが、
久しぶりに7回目となる日本国憲法(憲法)について話していきたいと思います。
今回のテーマについて
そして今回のテーマは前回に引き続き法の下の平等について
「直系尊属と殺人罪」というものになります。
ちなみに、前々回の話の大きなテーマは「男と女(前半)」というもので、
前回の話の大きなテーマは「推定嫡出と再婚禁止期間」という内容でした。
ではせっかくなので、前回の内容のおさらいをここでしておきましょう。
前々回の内容のおさらい
男女平等は男女無差別なのか?
そもそも憲法に「法の下の平等」の原則があるのだから、両性は平等に扱われるべきだといっても、
男と女の事実上の違いをまったく無視するのは実際には難しいです。
また現在の法律でも、男性と女性がすべての点でまったく無差別に扱われているかというと、
決してそういうわけではありません。
例えば、労働基準法では、
産前産後の休暇や生理日の休暇の規定は女性だけに適用されます。
そのような意味でも、憲法の男女平等の原則は決して無差別主義ではないのです。
なぜなら、男性と女性がどんな点においてもまったく同じように取り扱われると、
かえって不合理なこともありうるからです。
再婚禁止期間を取り入れる理由
日本の法律(民法)では、男性は離婚した次の日に別の女性と再婚できます。
ですが、一方で女性は離婚して別の男性と再婚しようとすると100日間待たなくてはならないのです。
この期間のことを「再婚禁止期間」と呼ぶのですが、
一体なぜ何のためにこのような再婚禁止期間は設けられているのでしょうか?
代表的な答えとして、
そもそも日本も含めて再婚禁止期間を設けている国のほとんどは、
女性だけにこういったような期間を設けているのですが、
その理由は主に「血族の混乱を防止して父性推定を可能にする」ということでした。
前回の内容のおさらい
再婚禁止期間は憲法違反?差別?
- ある女性Xが夫Aと離婚した日から300日以内に産んだ子供
→その子はXがAと結婚していた間に懐胎したAの子供と推定する - ある女性XがBと再婚した日から200以後に生まれた子供
→その子はXがBと再婚してから懐胎したBの子供と推定する
もしこのような方法で本当に自分の子供の父親が推定できるのだとしたら、
やはり、100日間の女性の再婚禁止期間を設けておけばよいということになります。
しかしながら、女性についてだけこのような再婚禁止期間を設けているので、
これは女性(X)が再婚する自由を不当に制限しており、
性別による差別を禁止している憲法14条1項に
違反する不合理な差別ではないか、ということが問題となります。
(学者の方々の間でも、再婚禁止期間の趣旨そのものについて賛否両論があるそうです…。)
最高裁判所による判例
ちなみに、この規定(再婚禁止期間)の合憲性は裁判でも争われましたが、
最高裁判所は1995年の判決で、
民法733条の立法趣旨は
「父性の推定の重複を回避し、父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐことにあると解される」
として、憲法違反の主張を退けました。
(※2015年に女性の再婚禁止期間が180日から現在の100日間に変わった。)
再婚禁止期間ってやっぱり必要なのか?
しかし現代の医学では、妊娠しているかどうかということは、
かなり早い段階で、しかもほぼ確実に判定できるようになっていますね。
なので、再婚禁止期間を決めておかなくても、女性Xが妊娠しているかどうかさえはっきりすれば、
すぐに再婚を認めても何の不都合もない、ということにもなりそうですね。
また70歳の女性が夫が仮に先立たれたあと、
とても気の合う人を見つけて再婚したいと思った場合を考えてみれば、
この女性に再婚禁止期間を適用するのはナンセンス(不必要)ですよね。
このような場合については、実務上も733条第1項を適用せずに再婚を認めた、
といった例もあるようです。
以上で簡単な前回の内容のおさらいは終わりです。
なんか前置きが結構長くなりましたが、
では早速、今回の内容である「法の下の平等~直系尊属と殺人罪」について
見ていくことにしましょう。
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今回のテーマに関する日本国憲法
第14条1項:すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
第24条1項:婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
第24条2項:配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。
※参考 日本国憲法条文一覧リンク 日本国憲法|条文|法令リード (hourei.net)
むかし尊属殺人罪ありき
1907年につくられた刑法と殺人罪
そもそも我が国の刑法というのは、もともと1907年に制定されたもので、
1995年になって、初めて修正され、分かりやすい文章になりました。
ところで、それまでの刑法には「人を殺したものは、死刑または無期もしくは五年以上の懲役に処する」
という殺人罪の規定のほかに、親殺し重罰の規定などがありました。
そんな殺人罪や親殺し重罰について、話がかなり重めになりますが、
しっかりと見て、このような内容についてじっくりと考えていただけると幸いです。
刑法200条について考える
普通の殺人罪の規定については、それほど難しい文章ではありません。
人殺しをすると、死刑か無期懲役、あるいは5年以上の懲役になるということです。
ところが、この規定を下の※の刑法200条と比べてみてください。
自分や配偶者(夫・妻)の「直系尊属」を殺したときの刑罰は「死刑」か「無期懲役」となっていて、
通常の殺人のときよりも刑罰がずいぶん重かったことが分かりますね。
このテーマについて、今回はじっくりと考えていきたいのですが、
まずは「直系尊属」という言葉の意味について少しだけ説明しておきましょう。
※刑法200条:[尊属殺] 自己又ハ配偶者ノ直系尊属ヲ殺シタル者ハ死刑又ハ無期懲役ニ処ス
直系尊属とは?
まず「尊属」というのは、自分と血縁関係にある人のうちで、自分よりも上の世代にある人の総称で、
その反対語は「卑属」になります。
そして、尊属のうち自分の両親や祖父母、曾祖父母のように、自分から見て同一の親系にある尊属が「直系尊属」です。
ですから、叔父や叔母などは直系尊属には含まれません。
ですが、配偶者の直系尊属を殺した場合(例えば、妻が夫の父親を殺したような場合)にも
この条文(=刑法200条)が適用されたわけで、
実際にも、嫁が舅や姑を殺したというような事件も数多くあるそうです。
※刑法200条:[尊属殺] 自己又ハ配偶者ノ直系尊属ヲ殺シタル者ハ死刑又ハ無期懲役ニ処ス
親殺しはいつでも死刑or無期懲役なのか?
では次に、刑法200条の「死刑又ハ無期懲役ニ処ス」について見ていきましょう。
規定の上では「死刑又ハ無期懲役ニ処ス」となっていても、実際の親殺しについては、
どんな場合でもこの条文のとおりに死刑か無期懲役になったわけではなく、
刑法に決められている「刑の軽減」のルールが適用されることがほとんどだったそうです。
ここで重要なことは、被告人が親殺しをするにいたった事情がどんなに同情に値するものであっても、
この刑の軽減のルールを使う限り、最低「懲役3年6か月」の期間は、
実際に監獄に入って懲役に服さなければならなかったという点です。
それは、懲役刑を宣告する際に「執行猶予」という、形だけの刑罰にするためには、
宣告する懲役刑は「3年以下」でなくてはならない(刑法25条)のですが、
尊属殺人罪の場合にはどうしても「3年6か月」より刑を軽くすることはできなかったからなのです。
※刑法200条:[尊属殺] 自己又ハ配偶者ノ直系尊属ヲ殺シタル者ハ死刑又ハ無期懲役ニ処ス
最高裁判所の判例から考える
親殺し重罰は当然!ー古い判例
1950年での裁判の判決で、最高裁判所は以下のように述べました。
「夫婦、親子、兄弟等の関係を支配する道徳は、人倫の大本」であり、
「人類普遍の道徳原理」である、…と。
ここから、これは親に対する子の道徳的な義務を特に重視していた、と考えることができますね。
そして被害者である尊属を保護するよりも、むしろ卑属の加害者の背倫理性を問題としています。
つまり、親殺しは普通の殺人よりも道徳的に重い罪なのだから、
それに重い刑罰を科すことになっていても問題はない、というわけです。
尊属殺重罰規定は違憲!ー新しい判例
ところがその後、最高裁判所は1973年に起こったかなりショッキングな父親殺し事件に対する判決の中で、
次のような趣旨のことを述べていました。
つまり、子供は普通は親(などの直系尊属)に育てられて成人するのだし、
親は社会的にも子どものことで責任を負っているのだから、自分を育ててくれた親を敬い、
その恩に報いることは、社会生活上の基本的な同義であって、そうした普遍的な倫理を維持することは、
刑法上の保護に値するから、あえて親殺しという行為に及んだ者の背倫理性は特に重い法律上の非難に値する。
そうなると、普通の殺人とは別に尊属殺人という特別の罪を設けて、その刑を重くすることは、
それ自体としては必ずしも問題ではないが、当時の刑法200条の規定は、
重罰の程度があまりにも極端で、上に述べたような立法目的を達成するための手段として、
著しくアンバランスであり、これを正当化できる根拠はない、と結論付けたのです。
執行猶予と実刑と刑法200条
普通の殺人なら、このような事例のように被告人に同情すべき事情(「情状」といいます)が
あるときは、執行猶予をつけることもできるのですが、刑法200条を適用する限り、
どうしても実刑判決になってしまうのです。
そこで最高裁判所は、尊属殺をとくに重く罰する刑法200条が、普通の殺人の規定に比べて
「著しく不合理な差別的取り扱いをするもの」だと判断し、憲法14条1項に違反すると結論付けたわけなのです。
その後については、この違憲判決のあった2日後に最高検察庁から通達が出され、
それ以降の殺人事件については、親殺しであっても全て刑法199条の普通殺人の罪として
処理・求刑するようにとの指示がなされました。
まとめ~立法によって解決された尊属殺問題!
いかがだったでしょうか。
今日は「最後のまとめ」がありませんが、結構ボリュームのある内容だったと思います。
家族や友人と法の下の平等について話し合いましょう!
ここまで、お付き合いしてくれた方は少しでも「法の下の平等~直系尊属と殺人罪」ということ
についてちょっとは意識してくれたんじゃないでしょうか。
まずは、とにかくいろんなことを知ることから始まります。
いろんな情報を踏まえたうえで自分のなりの意見を持ってもらったらいいですね!
そしてまた、こういう議題で友達や家族とディスカッションしてみるのも面白そうですね。
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それでは最後まで見ていただきありがとうございました。
それでは、またいつかお会いしましょう。けいタン
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